ピアラ・大熊取締役が語る、D2Cブランドの立ち上げと商品開発

D2Cブランド立ち上げの全体的な流れ

(株)ピアラ 取締役 兼 コンサルティング本部長大熊 景伸 氏
2011年株式会社ピアラ入社。オフライン広告の事業部長を経て、2017年、同社内にてコンサルティング本部を立ち上げ、数多くの通販企業のDX推進を手掛ける。現在は取締役兼コンサルティング本部長。

PV・中:ブランドの立ち上げと商品開発の流れを教えてください

ピアラ・大熊:D2Cブランドを立ち上げる際には、どのような商品を作っていくかという商品企画に取り組みます。この際に重要になるのは、ブランドと商品は明確に違うということです。ブランドは叶えたい世界観、商品はそのための解決方法に過ぎないので、先に考えるべきなのは叶えたい世界観であるブランドです。

しかし、商品には成分や形状などの流行り廃りがあるので販売時のマーケティング施策や直近のトレンドで商品設計を先に行って、整合性のあるブランド構築を行う場合もあります。商品企画が先にくる場合もあって開発段階で「うちの会社はこれが得意」というのをきっかけに商品展開・ブランド構築が上手くいくケースもあり、どちらがいいか一概には言えないところもあります。

弊社ではブランド立ち上げを中期計画など経営面もご相談いただくことが多く、そういった場合は我々が事業計画書から提案していきます。事業計画の段階では予測できないことも多いのである程度コンサバに作って、問題が起こったときに弊社で蓄えた知見・ノウハウで都度対処していきます。

ブランドは商品を生活習慣の中にいかに取り込むか、生活の中にどれぐらい溶け込んでいるかが重要で、生活している中で忘れることないもの(基本的には毎日使うもの)のほうが成功の確度は高い傾向にあります。毎日使う物はタッチポイントが多くなるのでロイヤリティも高めやすく、究極的に言えば生活習慣を変えるというブランドの目的に適合しています。

たとえばダイエットのサプリならコレさえ摂っていれば痩せます、ではなく、痩せられるように生活習慣から変えていける商品設計とブランド構築をするべきです。商品に効果がないと便益がないので、商品にきちんと便益は備えた上でその便益を享受するための生活習慣に誘導します。既存のユーザーに対して意識改革・啓蒙・情報提供も含めてブランド立ち上げを行うというのは見落とされがちですが重要なファクターです。

当たり前ですが、ユーザーがブランドを好きでないと中々生活習慣を変えてくれないので、商品を作るときにはブランドに対して愛着を持ってくれるように設計しないといけません。モデルやYouTuberなどのインフルエンサーがいうと簡単に生活習慣を変える人が多く、ブランドも同じくらいの信頼性を得て、生活習慣を変えることを目指すべきです。

商品企画で考慮すべき点とは

PV・中:他に商品企画に重要な点はありますか?

ピアラ・大熊:商品企画に重要な点としてはブランド名・ロゴがありますが、これに関しては基本プロの方にお任せしています。やはり、この分野はセンスが大きい部分を占めるのでスペシャリストの方にお任せしたほうがいい結果になることが多いです。それに対して、剤形・容器・ボトルデザイン・ブランドサイトなどは、その後のプロモーションやマーケティング、購買経験などにも影響するので、我々の蓄積されたノウハウなどから経験則的に作成しています。

カートは規模次第での選択になるのでそこまで悩むことはないです。それに対して初期に商品に併せる同梱物・お客様の声はとても重要です。新規商品のVOCは、プロのカメラマン・メイクがきて写真をとってくれるイベントを開催することでユーザーを集めて制作していきます。

*VOC:Voice of Customerの略で他のユーザーの感想などをLPや同梱物に活用すること。

ブランドのLPはこれまでの経験則で必要なコンテンツも整理されてきたので、ノウハウさえあれば苦労することはないです。LPにまで来るお客様が望んでいるのは、商品を購入するためのあと一押しで、権威のある人が後押ししているようなLPを心がけています。昔は訴求別にLPを細かく分けるという手法も取られていましたが、広告手法の変化によってLPのパターンは減ってきている傾向です。

PV・中:商品企画では他商品との差別化が重要視されますが、実務ではどのように考えているのでしょうか?

ピアラ・大熊:「商品の独自性を伝えなくてはいけない。商品が多くなっている中で辛い」という相談も非常に多く、商品開発では3S(差別化・新規性・ストーリー)とよく言いますが、実際の現場では+表現できる機能性を追加することが多いです。化粧品などの分野では、薬機法などの関係でマーケティングで使えない表現が明確にあるので、使える機能性やすぐに実感できる機能を商品企画の段階から考える必要があります。

他に商品企画の段階から考えておくべきこととして、広告クリエイティブの作りやすさは意識しておく必要があります。Facebook,Instagramのような広告媒体ではクリエイティブが枯れるのが早いです。そのためクリエイティブを量産する必要があるのですが、そもそも素材にバリエーションが無いとそれも難しいです。
一例としては、容器の色が光の加減で変わったりすればパターンも増やしやすいので、容器に工夫するとかを検討します。

インナーツール(同梱物)については、初回であれば商品パンフレット・エビデンスブック・お客様の声的な冊子・クロスセル商材のパンフレットを同梱することが多いです。初回の購入・2回目・3回目で同梱物を変えることで、継続的にコンテンツを楽しんでいただくことが重要になってきます。そのほかにも、担当者の顔写真やプロフィールを同梱することで、あなたの担当は私ですよ、という実感をしてもらいます。その際にはある程度顔を出していかなければいけなく、実際のコールセンターの方などに担当してもらい、通販だから余計にですがお客様との距離を近く保つことは重要です。

PV・中:商品企画後の流れを教えてください

ピアラ・大熊:ブランドの構想から商品の発売まで、短くても約9か月かかります。目安として初期ロット数は最小で3000程度から行い、最初から残存率と販売数からどれぐらい追加発注するかの計画も立てます。最初はロット数が低いので、原価率が高めですが、成長した後にどれくらいのキャッシュフローになるかが重要なので、初期の原価率はシビアに見る必要はありません。

商品開発が済んだ後は販売するための集客ですが、すぐに購買層になるホットリードだけでなく、いずれ買ってくれるお客さんを囲っておく必要があります。将来顧客の囲みこみも行わなければいけないので、初期はコストがかかるように見えますがこういったものも先行投資として必要です。

実際に商品が販売された後は初速や継続率などから検証が始まります。

ブランドが成功する先行指標は、大きく2つの事象です。

1点目としては3回目の継続率が目標を上回ると手応えを感じます。解約忘れで2回目を受け取ってしまったお客様が3回目のお届けをキャンセルするケースが多く2回目では判断は早いです。その2回目を乗り越えて3回目の継続がいい数字が出せるとスケールに向けて踏めるなという判断をします。2点目としては肌トラブルがあった時です。化粧品の場合は効果の出るものは一部の人に肌トラブルが出ます。効果があって、それが過剰に効きすぎる場合に肌トラブルが起きるので、肌トラブルというのは高機能な証です。肌トラブルの出てしまったお客様には申し訳ないですが、多くの人に効果を実感いただくには一部の方には肌トラブルが出てしまいます。目安としては、100人中1人でも肌トラブルとしては多い方で、コールセンターに「肌トラブルで解約されました」という報告があると効果を感じで頂いてるお客様も多いのかな、という想定が立ちます。

走り出したあとの問題としては、KPIの問題というか組織の問題でもあるのですが新規獲得と既存の継続を担う部署が別れていることです。部署が別々だと、新規獲得したけど継続が残らないという結果になった場合、責任を押し付け合うことになりがちです。新規部門はせっかく取った新規をCRM部門が落としていると考え、CRM部門は続かない新規顧客を取ってくると考えます。全社のビジョン・ミッションのようなものがしっかり定着している会社だとそういった問題が起こりにくいですが、組織構築のできていない会社の場合は我々が間に入って共通のKPIを設定をお手伝いすることもありますが、基本的にはチームビルディングの問題なのでクライアントさんの内部で解決していただいています。

商品開発時に持っておきたい視点

PV・中:商品開発時の主要なKSFはなんでしょうか?

ピアラ・大熊:商品開発でしばしば誤解されているんですが、定量化が難しく、外に出せない情報は正直言って意味がありません。例えば「実はアトピーに効くんです」というのは認可を得ないとなので外では言えませんが、効果としてあるらしいというのはあまり意味のないことです。重要なのは外に出せる情報で、アトピーに効いたとしてもアトピー患者の方にリーチするには認可が必要で、その認可がないのであればアトピー患者にリーチできないので訴求のうえでは効果がないのと同じです。

商品開発する際に重要なのは外に出せる情報を機能に盛り込み、薬機法などの表現規制に気を付けながら進めることが重要です。しかし、化粧品やサプリでは商品自体に訴求できる差別化要因を盛り込むことが難しい場合も多いです。その際にはマーケティングで他商品との差別化をする必要があり、商品開発段階で出来るだけ多くの切り口を持てるようにするしていくことが大切です。

商品開発段階では容器も重要です。商品を一定の大きさにしないとポストインできないので、大きいと宅配便扱いになってしまいます。商品というのはお客様からすれば買ったときが一番テンションが高くて、届くまでに下がっていく傾向にあり、高い時のモチベーションの時に使ってもらったほうが効果を実感してもらいやすいので、出来るだけ早く届くようにすることが重要です。その点宅配便扱いだと、受け取りが必要なため忙しい人だと受け取りまでに時間がかかってしまい、テンションが低い状態で初使用になる危険があります。そのため、商品の大きさを絞ることにより、ポストインすることが地味に重要です。その際に化粧品の丸型ではなく、オーバル型にすることでポストインできるようにしたり、詰め替え型でパウチ容器にすることで基準に合うように工夫しています。

初期計画と検証の重要性

PV・中:商品発売前に絶対に取り組むべき施策、やっておくべきことはありますか?

ピアラ・大熊:初期計画が最も重要なので、絶対に取り組んでおくべきです。商品開発やローンチなど走り出すのはお金さえあれば出来ますが、データの母数を溜めて検証しようとしたときに、初期計画の数値がなければ検証できません。1か月分のデータでも12倍することで12か月のデータできるので初期計画をしっかり立てることで、無駄なコストをかけないことが重要です。

またローンチ前のギフティングはとても重要で、配れるところがあればなるべく配ったほうがいいです。費用的な負担は商品原価でしかないのでCPAに比べるとコスパがよく、エビデンスも得られるのでやらない手はありません。転売の心配などをされる方も多いですが、「転売のリスクを回避するために、1万円のコストを払って使ってもらうの?」という話になるので、コストパフォーマンスを考えれば絶対にやるべきです。容器もちょっといいホテルのアメニティぐらいの雰囲気を演出できると置いてもらった時にある程度映えるので、デザインを考える際には考慮したほうがいいでしょう。毎日使う物ですし洗面台で毎日何回も見るので、ある程度高級感があったほうが価値を感じてもらえ、特に日本の化粧棚は小さく、多くのものを置けないのでその中でも目立つようなものがいいでしょう。

また、昨今コールセンターは回線絞ったりと蔑ろにされがちですが、私はローンチ前から重要視すべき部分だと考えています。消費者からすれば、コールセンターにつながらなかったら次に電話するのは消費者センターです。そうなってしまったら継続なんて望めません。消費者センターからすれば仕事しないほうがいいので、多く問い合わせが来る事業者には業務改善を言われ、意図しないリスクを抱えることになります。コールセンターをコストとしか捉えない企業も多いですが、隠れたデメリットも多いので応答率は最低でも80%は超えておくべきで、ローンチ前に絶対に取り組んでおくべき事項です。

コールセンターは自前だけでなく外部委託でやっているところもありますが、お客様からのフィードバックも受けられるのである程度自社で賄って方がいいです。LINE上で行えるコールセンターのような機能もあるので、そちらに移行していくのもいいでしょう。最初のコールセンターはとても割高で、1人8時間勤務で1時間あたり6本、一日あたりだと48件しか対処できなく、コストが高いのは否定できませんが、コールセンターの価値を向上していけば、商品価値をコールセンターで付与できるので最初期から絶対に取り組むべきことです。

PV・中:なるほど、ありがとうございます。

では、商品発売を控えたD2Cマーケティングで重要なことは何でしょうか?

ピアラ・大熊:4Pがマーケティングで重要だと言われていますが、VUCAと言われる不確実な要素が増えてきた時代(TV見ない・パソコンがない・ECが中心など)では、4Pよりも4Eを考えていく時代だと思っています。

4Eはマーケティングフレームワークの1つで、

・Experience(体験)

・Exchange(交換)

・Every Place(どこでも)

・Evangelism(伝播)

の各要素を分析することで、より現代に合ったマーケティング施策が可能になります。

4Eへの転換はアンテナの高い人に質の高い情報発信を行っていくことが重要で、全体に届けるよりも一部の感度の高い人に届けていくべきです。その際に単純に売価を商品の価値にするのではなく、商品がもたらす体験や経験にしていく施策が必要になってきます。商品に価格をつけるのではなく、体験・経験自体に価値をつけていく、化粧水を買わせるのではなく、肌がきれいになる体験を売っていくことがD2Cのブランド体験です。

商品を売る難易度は高くなってしまいますが、それを実現できる商品を企画して作って届けていけるブランドを目指すべきです。この観点は後付けが難しく、定まっていないとマーケティングやクリエイティブなどの多く場面でブレてしまうので、コンセプトはしっかりと最初に決めておくべきです。

PV・中:LTVとCACを主要指標に事業を行うかと思いますが、その先行指標として何を設定してどの様にモニタリングするべきですか?

ピアラ・大熊:集客がないと検証も何もないので、とにかく集客を成功させないといけないのが大前提です。集客の解決方法は、面の多い媒体を攻略することにあります。Yahoo・Google・Facebook・Lineなどの大手とオフラインの人が多い場所で、どんな手段を使ってもとにかく人を集める必要があります。面の攻略と併せてクリエイティブの制作体制も必要です。

検証段階では初期計画が最も重要で、3回目の残存率を高めることがとにかく重要です。年間だけでなく、短期で判断がつくよう3ヶ月LTV 6ヶ月LTVを計画し、閾値を超えていれば資金を投下、そうでない場合は手法を変えて検証を繰り返します。

3回目残存率が低く出るのは色々な理由があり、例えば届くまで時間がかかる、買ったけど使っていない、使うペースと届くペースに差異が出るなど製品自体の満足度以外にも影響する要素がありますのでそういった部分にも注意を払います。

届くまでに時間がかかるのは組織の内部構造やオペレーションを改善し、容量の問題はどの程度使ったらいいかのエビデンズブックをつけるなどで対処する必要があります。例えば具体的に500円玉大の量を使ってください、多少べたつくくらいの容量にしてくださいなどを伝えていけたらベストです。

これからの時代に必要な能力とは

PV・中:今日はお話聞かせていただきありがとうございました。最後にD2Cブランドの運営に今後より重要になる要素があればお話しいただけますか。

ピアラ・大熊:先ほどまで立ち上げや商品開発の流れや重要な指標などについて語っていましたが、4Pが4Eに移行したように、変化の多い時代には従来の基準や指標は役に立たないものになっていきます。もちろん、我々はその中で成果を出すために試行錯誤を繰り返し、その中で時代にあった解決策を再現性高く見つけ出して、その時代のD2C事業推進に活かしていきます。

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