【ピアラ・飛鳥社長インタビュー 後編】地方ブランドには資本体力が必要なのか?

ピアラを十数年やっていて、資本がないと勝てないという肌感はありますか?

2004年からアフィリエイトやECが急速に伸びていき、今の1/3程度の単価で新規獲得ができていた時代のリピート転換率と比較して、今では顧客獲得コストも上がって来ているし、転換率も下がってきています。オンライン上のデータがペタバイトレベルで急速に伸びていて、データの量と広告費用はある程度比例し、情報化社会の発展により情報の総量が増えることで、広告が効きにくくなっていることから新規顧客獲得コストが高くなっています。

また、新興のD2Cブランドもどんどん出てくる時代なので、消費者もブランドスイッチの検討をする場面も増えていると考えます。

ピアラがクライアントと共に出稿している広告費用も過去5年で数倍になっており、すごくマーケが難しくなっているし、限界CPAがどんどん上がっています。CVRは下がっているのに広告費用は増大するため、コスト効率みたいなものがどんどん悪くなっているので、広告によって売り上げを伸ばすには投資できる体力がないと厳しくなっています。そのため、やはり資本体力が必要で、長期的にはそこで大きな差が出てくるでしょう。

2015年にネット上でメーカーとして登録されていたのが3500社、2019年には5000社とアイテムも社数も増えています。最近コロナでやらなくなってしまっていますがOEM会社はかなり展示会に出展していました。OEM会社の発展が参入障壁を下げていて、市場の拡大に寄与していると考えています。

通販事業の場合、SaaSと比べるともちろんチャーンレートは高いですし、利益率も低いです。ですが、リカーリングビジネスというモデルで言うと近いところがあり、SaaSのスタートアップが急成長していることからSaaSと近い視点で投資回収のイメージがしやすいところも新規参入が増えている一因と考えています。

ファンドの思想は、SaaSをイメージするとすごく理解を得やすかったです。化粧品も同じようなもので、ブランディングだけでなく指数計算をすることにより、すごくわかりやすくなりました。SaaSの場合は、解約率が悪くなるも場合もあるが、売上推移も見えるし、リピート率は急に悪くならないし、CV率も施策ごとに変化し、経営を計算することができます。

つまり経営を計算でき、資本体力次第というのは投資家にハマりやすく、説得しやすいです。ここは通販も共通しており特に化粧品は原価率もかなり低いので、やりやすいのでは、ということで勝てる可能性がある、と投資家側に認識され、その結果としてD2CやOEMなど化粧品業界に投資が増えていると認識しています。

年々獲得効率が悪くという予想ですが、対策などはありますか?

今後獲得効率が年々悪くなるのは確実なので、ブランドは原点回帰をしていかないといけないです。YouTubeの広告をスキップしない人はいないしネット上だけではリアルな体験は伝わりにくいし、口コミは信じられていないし、広告も信頼されていないです。

押し付けているのか押し付けていないのかわからない形で、自然に溶け込むようなものでないとマーケティングは成功しません。プッシュ型の広告はフォーマットが似通っている為、無意識的に無視するユーザーがほとんどです。コンテンツとシームレスな体験を与えるような広告施策を行わないと勝ち残れないですし、そういった手法が今後増えていくだろうと思います。

D2Cビジネスはテック系のプラットフォーマーの様にWinner takes allの図式ではなく、中小が複数生き残れる領域だと考えています。昔のように有名なブランドをみんなが買うのではなく、小さなコミュニティがたくさん出てきて、消費者に寄り添ったブランドや消費者とブランドが共感し合うようなブランドが生き残っていきます。

資生堂がTSUBAKIをファンドに売却したのは大きな動きだと思っていて、マスマーケティングの時代から細分化したマーケティングに移行する動きが大きくなってくると見ています。

マス型の商品は消費の相当の割合を占めていましたが、これからはどんどん縮小していき、多様化した価値観に合ったブランドや商品が存在感を増すと見ています。Fenty Beauty(フェンティ ビューティー)というリアーナのコスメが爆発的に売れて5億ドルを超えるまでになったのは、マスレベルのサイズ、個のコミュニティが大きかったからです。カイリー・ジェンナーなどもコミュティ自体がマスで大きいですし、SNSコマースによってGlossierが数年かけて作った規模をリアーナだったりが一気に追い越すような成長スピードになっています。

美容・健康の領域ではIPOするのは、ごくわずかだと思いますがM&Aは非常に活発で、ロレアルが日本発ドクターズブランド「タカミ」を買収したり、コカコーラがキューサイを買収したりとM&Aの市場がしっかりと存在しています。美容・健康やゲーム系の企業はデジタルマーケティングを効果的に活用していており、eコマース分野で慣れている会社も多いので買収されるのも分かります。IPOは少ないといいましたが、優れた企業はIPOにも成功しており、今後も優れた新興ブランドのIPOにはとても期待しています。

資本体力を重要視していますが、必要なイメージはどこから来ているのでしょうか?

ブランドを作っていくには、かなり費用がかかります。その中でも特に設備投資が大きく、そもそも窯を作ったり、量産化するのに投資が必要不可欠です。大量の資本が必要ということはリスクも大きくなり、踏ん切りがつかない事が多いです。ブランディングも大きな要素ですが、「売れるかな?」と軽い気持ちで製品化すると大変になってしまいます。

食の分野でもテストマーケティングが必要で商品の精査していかなければいけませんが、直近では競合がたくさん出てきてないのでまだチャンスがあると思っています。日本では地方の食を見ているVCはそう多くないのが現状です。しかし、優良企業はたくさんあり、富裕層向けや海外向けの戦略がちゃんとあればスケールしそうな所も多いです。

地方だからこそ売れるというのもあり、九州でもつ鍋を売っているところはもつ鍋といえば九州というイメージもあり、楽天で十何億円も売れています。日本で食品のEC化率は3%以下で、原価が高いので通常のマーケティングとは違う点が多々ありますが、化粧品と比べると獲得もやりやすいですし、意外に健康食品並に定着率が高いです。

しかし地方のストーリーであるとか、拘っているからこそ美味しい、みたいな形を大切にしないと売れなくなった事例もあり、本質からずれてしまったり顧客との対話も続けなくなってしまったところは残念ながら失敗してしまいます。

久世福商店のような店も成功しているし、山本海苔店のように小さなコミュニティをちゃんと作りに行く例もあります。飲食店も地方のいい物を食べに行くという流れもでてきているので、可能性も切り口もまだまだあると思っているので挑戦していきます。

海外やアジアの投資家でもマイクロECに注目していて、BASEやShopifyはマイクロECの典型例です。身内のコミュニティで売れるものもあり、コミュニティ起点のECも伸びていくと思っています。街の魚屋で「今日は何が美味しいよ」というのも立派なコミュニティです。買い物客は魚屋の大将のおすすめを起点にして献立を考えて買い物しますが、これはデジタルでいうと、まさにインフルエンサーのライブコマースです。

こういったものは局地的ではありますが差別化していけばコミュニティがファン化していき、ECでも戦えるようになります。こういった細分化された嗜好性に対してバーティカルなブランドやサービスを構築していき一社で複数のブランドを運営していくというモデルも今後のトレンドとなっていくでしょう。